くがねの牧通信 2007年5月 

  釣りこ

 
  皆様、こんにちは!
  5月に入り、ここ田野畑でもやっと桜が開花しました。暖冬だったため、もっと早くお花見が出来るかと思いましたが、4月が寒かったせいで、結局例年並となりました。大自然はしっかりと帳尻を合わせてくれているようです。
  先月号はミラクール号の話題でしたが、あるお客様からは、なんと直接ミラクール号宛に励ましのお葉書を頂戴いたしました。牛宛のはがきを貰ったのはもちろん初めてで届けてくれた郵便局の方も驚かれたことでしょう。お蔭様でミラクール号は、もう少しでみんなと一緒に放牧できるまでに回復しました。この場をお借りして、心より御礼申し上げます。
  また、現在我が家で研修に励んでいる平田さん(30歳)は、HPにてこの「まき通信」を見たそうで、それをきっかけに田野畑を訪れたそうです。こういうご縁まで広がっている事に、心より感謝したいと思います。訪れた方々に「なんだ話と違うな」。と、思われない様、これからも身を引き締め、精進したいと思います。では!


  さすがはゴールデンウィーク。沿岸部の大動脈、国道45号線は、いつもの数倍に交通量が増え、道の駅には見た事も無い人だかりが。ソメイヨシノもちょうど見頃を迎え、天気は晴天と最高の行楽日和である。そんな賑わいを他所に、私は一人寂しく放牧地で、遅れている牧柵の修理に追われていた。いつもは、「カズも一緒にお山に行く。」と、私についてきては手伝っているのか邪魔をしているのか分からない相棒の息子も、ウルトラマンショーだか仮面ライダーショーへ取られてしまった。そんな私を鶯の美しいさえずりが慰めていた。

  本日の修理箇所は放牧地の東側を流れる千足(せんぞく)川の川沿いである。くがねの牧は面積約25?だが、この牧柵やバラセンが無ければ牛達は何処までも餌を求めて歩いていく。ちょうど山菜類なども含めたこの時期の新芽は、長い冬を乗り越えた牛達には特別のご馳走である。その為、春のバラセン修理と牛の活動範囲の拡大は、毎年恒例の競争となる。「今年こそは1度も外に出さないぞ!!」そう意気込みながら、雪の重みや老朽化によって切れているバラセンを繋ぎ合わせたり、伸びきった箇所をピンと張ったりと、作業を繰り返すのだった。

  しかし、横を流れる幅1mほどの沢には、時々「イワナ」の影がユラ、ユラと見える。「よし、この辺でいいだろう。」早くもさっきまで固かった決心は何処かに吹き飛んだ。私は腰に下げている釘袋やノコギリやナタを外し、背中に背負っていたバックから、釣竿と数日前に嫌がる妻に無理やり買わせた川魚用の餌であるぶどう虫を取り出した。その辺にミミズやバッタ、川虫など、餌は沢山いるのだが、から泣き(めんどくさがり)の私はそこまではしない(笑)。ささやかな私のゴールデンウィークが幕を開けた。
川に垂れる釣り糸を見ながら、昨シーズンのある失態を思い出していた。思い出すだけで、自分のセンスの無さがつい可笑しくなってしまう。

  昨年の6月頃だっただろうか。 「物より思い出!」との、あるCMに影響された私は、3歳になる長男と、道路端にある比較的条件がいい小川に出掛けた。
「おー、すげー、お魚、お魚!!」
  1匹釣れるたびに息子は大ハシャギしている。私も息子の手前、1匹も釣れなかったらどうしようと心配していただけに、その喜ぶ姿がとても嬉しい。今日は珍しく調子がいいようだ。
  「ほら、見てみ、あそこにお魚が見えるでしょ」。
川の窪みで泳いでいるイワナを指差して、息子に教えた。
「うん、うん。」と、抑えた小さな声で息子が答える。
目が期待と緊張でキラキラ輝いている。
「よし!見ていろよ。」と、心で話しかけて、そのイワナのいる場所を目掛けて、釣竿を下ろした。

  「イテテテ、痛い、パパ。」
思いもよらない声が隣から響いた。振り向いて目を凝らした私は、思わず絶句した。息子の小さな顎の下に、針が引っ掛かっていたのだった。幸いにもその針はすぐに外れたのだったが、あまりの騒動にその下で泳いでいたイワナちゃんはもちろん隠れてしまった。
「かず、ここでパパに釣られたの。」
その場所を車で通るたび、妻の嫌味がしばらく続いた。
                                     終わり