くがねの牧通信 2007年2月 

  朝のひとこま

 皆様、こんにちは! 雪が少ない冬でしたが、先月末にここ田野畑村、特に山間部では50センチ以上の大雪に見舞われました。ただ、相変わらず気温は高く、雪自体も水分たっぷりで春先のような感じでした。寒さが厳しくない方が楽には楽ですが、やっぱり冬は冬らしくが1番ですね。今回の通信はその大雪の朝のひとこまをお届けします。

 1月27日、朝5時、天気予報通り、部屋の灯りに一面の銀世界が映し出されています。積雪は10センチ弱、しかし、まだまだ積もりそうです。暖冬だったこの冬、こんなにまとまった雪は初めてで、この分だと除雪作業もしなければならないようです。「忙しくなるぞ。」そう思いながら牛舎に向かった私は、ある異変に気が付きました。寒さを避けて牛舎内に避難している飼い犬のコロが、しきりに吼えているのです。中に入り電気を点けてみると、なんと生まれて間もない子牛が、ピョンピョン跳ね回っているではありませんか。  「またか!」大変失礼ながら、私の子牛を見た第一声でした。と言うのも昨晩の事です。
 
  夜10時過ぎ、晩酌の日本酒も程よく利いてきたので、さあ寝ようかと布団に入ったとき、よく耳を澄ますと牛舎のほうから、コロの吼える声が・・・。「お産か、何かあったな・・・。」「うーん、聞かなかったことにしよう。」という邪念に、なんとか打ち勝った私は、牛舎に行ってみました。案の定、親牛の「うー、うー。」と力む声が外まで聞こえてきます。ケムケム号がちょうど子牛を産み落とすところです。ちょっと子牛を引っ張って手伝いたいところですが、ここは我慢。
  「よし、そうだ、なるべく自分の力で頑張るんだ。」私が立ち合ってから数分の内に彼女は♂牛を出産しました。親に薄い塩水を飲ませたり、敷き藁を敷いたりと、後始末し、一息付いた私の送った目線の先には、バーンとおっぱいが張ったお産を控えたミッチ号の姿が。「ちょっと間を空けてね。」私の素直な感想だったのですが、そんな訳にはいきませんでした。
 
 雪が降りしきる中、牛を外に出しました。久しぶりの雪に、牛達もなんだか嬉しそうで、走ったり、じゃれ合ったり、降ったばかりの新雪を舐めたりしています。「元気だなあ。」そんなことを思いながら牛達を眺めていると、お袋が少し興奮したように「お父さんは何処。」と、探しています。「どうしたんだ。」と、尋ねると、「イタチが罠に掛かって、今暴れている。」と、言うのです。すぐに様子を見に行きたかったのですが、私にはまだ仕事が残っています。とりあえず、珍しいことなので子供達に教えました。まだ眠気眼だった2人でしたが、事の仔細を聞くと、急いで見に行ったようでした。
我が家は、本当か嘘か分かりませんが、築300年といわれています。内装はかなり修繕したりもしましたが、隙間だらけで、ネズミやイタチなどにとっては、格好の餌場です。最近目に余って悪戯が酷かったのがこのイタチで、つい2日前に近所の猟師さんに、罠をセットしてもらったばかりでした。しかし、こんなに早く罠に掛かるとは、さすがです。

  私が牛舎から帰ってきたときには、イタチは親父によって息の根を止められていました。10センチほどの茶色の死骸が、無残にも罠の横に転がっています。「息子達はどう思ったのだろう。」そう思いながら、妻に話を聞くと、92歳の祖父と4歳の長男の間に、こんなやり取りがあったそうです。
 息子達がイタチの死骸を見ていると、そこに祖父が登場。「まだ生きているかもしれないな。」と、傍に落ちていた棒で、イタチの頭を殴り始めました。それを見た息子「おじーちゃん、もう死んでるよ。」必死に訴えかけますが、祖父は聞く耳を持ちません。バシ!バシ!!「おじーちゃん、もう死んでるってば。」聞く耳というか、祖父は耳が遠く、息子の声が聞こえないのです。息子はちょっとショックだったかもしれません。しかし、その祖父のごく自然な行動が、祖父の歴史と田舎に生きる厳しさを示していたように思われました。私のほうがちょっと考えさせられた、朝から忙しい一日でした。