くがねの牧通信 2006年11月 

やっぱり・・・

 皆様、こんにちは!
 先月号の通信「ヒッチハイク」には、たくさんのご好評を頂きまして、本当に有難うございました。 「是非、続きが知りたい!」。と、数件のご意見もございましたが、実は私もその後の展開を気にしている一人です。
進展があり次第、皆様にご報告したいと思っています。ただ、公太郎君がその気になるかが、一番の問題です・・・。

 10月上旬、私はある1頭の日毎に張ってくるおっぱいが気になっていた。これはお産が近くなってきた大きな証拠であり、本来は喜ぶべきことで、現在搾乳を休ませている牛が多い中(分娩予定日2ヶ月前から搾乳を休ませる)、全体乳量の回復のという意味でも、喉から手が出るほど望んでいることと言っていい。しかし、その乳房が大きくなるほど、私の不安もこれまた大きくなるのであった。なぜなら、その乳房の持ち主こそ、この紙面にも登場したことがある、暴れ牛「フジコ号」なのだ。
 
  思い起こせば、彼女は何人に怪我を負わせたことであろう。始めの被害者は研修生の北川さんだった。搾乳中に不意のキックをもろに受け、頭を地面に強打したのだ。
  2人目は、弟の光(みつる)。お盆に帰省していたおり、急に暴れ出した彼女に足を蹴られ、しばらくその足を引きずりながら歩いていた。
  そして、私もその被害に・・・。これまでは飼い主の私達にはさほど抵抗することはなかったのだが、弟が蹴られた翌日、搾乳機であるミルカーを装着しようとした瞬間、目にも止まらぬ速さの蹴りが飛んできたのだった。幸いにも警戒していたため、直撃は避けたが、ちょっとかすっただけで私の右手の甲の皮は薄くむけていたのである。恐るべしフジコ号(脂汗)。 4人目の被害者は、9月の上旬に研修に訪れた群馬県出身の野口君。性別男性。彼の場合は、搾乳のためフジコ号に触れたわけではなかった。ただ、彼女の隣の牛を搾乳場所に連れてこようとしただけだったのである。人見知りのフジコ号は、研修生の野口君を見ると怖がり始めた。その動きに野口君が連れてこようとした牛が驚き、運悪くフジコ号の後ろ足のほうへとその牛に引っ張られたのだ。そこへ彼女の強烈な後ろ回し蹴りが「バシ、バシ!!」と2発も野口君を直撃したのだった。彼の右腕は切り傷ができ、仕舞いには水脹れになってしまった。
  いまだかつて、これほど多くの人に負傷を負わせた牛を私は知らない。そして、この牛に携わって無傷なのは親父だけとなった。

  10月19日午後1時、フジコ号は無事、雄子牛を出産。 ちょっとした、アクシデントがあった。両前足から娩出される子牛の片足が折れ曲がっており、途中で引っ掛かっていたのだ。幸いにも親父が子宮に手を入れ、早急にその足を直したため、親子ともすこぶる元気である。
  さあ、そしていよいよ、夕方から久しぶりの搾乳開始である。お産したてのお乳は初乳といって出荷は出来ないので、他の牛のお乳に混ざらないよう、別に搾らなくてはならない。その担当は親父である。「よしよし」。とブラシでフジコを撫でながら慎重に事を進めているようだ。私の期待?とは裏腹に何事もなく、久しぶりの搾乳は無事終了した。

  そして、3日が過ぎようとしていた。まさか、お産のときに手助けしてもらったことを覚えており、改心したのだろうか。これは、「フジコの恩返し」。という題で今月の通信は決まりだなと、思い始めた矢先、恐れていた事態になってしまった。
 忘れたころに災害はやってくるではないが、4日目の夕方の搾乳中、急にフジコ号が暴れ出したのだ。何かに驚いたように、その暴れ方は尋常ではなく、親父は隣の牛の前まで蹴り飛ばされ、両足で飛び回っている彼女に危うく踏み付けられそうになった。一歩間違えば大怪我を負っていたかもしれない。それでも若い頃の親父であれば、牛の頭や足をロープで固定し、何が何でも搾っていたに違いない。しかし、来年は還暦を迎える年である。あっさりフジコ号の出荷を決意したのだった。もちろん、私にはそんな気概はまったくない。触らぬ神にたたりなしである。それにしてもあの暴れ方は何なのだろうか。どこでどう育て方を間違ったのか、牛飼い人生まだまだ修行中である。