くがねの牧通信 2006年9月 

呪縛

 皆様、こんにちは!
 例年ですとお盆を過ぎれば、やませが入ったりし、ぐっと涼しくなるのですが、今年は珍しく残暑が厳しい毎日でした。
 さすがに9月になるとだいぶ過ごしやすくなりましたが、慣れない暑い毎日に少々バテ気味であります。
 さて、今年もいよいよ現地交流会が迫ってきました。
 記念すべき10回目のこの交流会が、訪れたすべての方々にいい思い出となるよう、今から願わずにはいられません。今年はいい天気でありますように!!

 8月17日、里帰りしていた妻と子供達を乗せ、家に帰宅したのは、夜の8時ぐらいでした。
 「お帰り、お帰り、ヤギが来てるぞー。」出迎えた親父が言いました。
 そうです、今日から数日間ヤギを預かることになっていたのです。
 「見たい、見たい。」と和真(長男)がダダをこねるので、懐中電灯を持ち、早速ヤギの様子を見に行きました。
 ヤギはちょうど放牧地の出入り口付近に、ロープで繋がれていました。
 足元に生えている草を美味しそうに食べています。
 長男は見たいと言っていたわりには、怖がって近づきません。
 いまだに牛にも触れなので大丈夫かなと、すぐ将来のことを心配する父親なのでした。

 翌18日の朝、私は目覚めると体の異常なだるさに気が付きました。
 体温計で熱を測ると38℃・・・、一気に体の力が抜けていきます。
 お盆中のお酒の飲みすぎ以外に原因は考えられません。
 親父と研修生の川島さん、守矢さん合田さんに事情を話し、朝の作業を託しました。
 そして再び布団の中に。
 10時近くなってからやっと彼女達が牛舎から帰ってきました。
 いつもだと8時前には朝の作業を終え、その後朝食となるので、通常より2時間も多く時間がかかったことになります。
 「どうした?何かあった。」と尋ねると、牛達が放牧地から牛舎の方へ帰りたがらなかった、と言うのです。
 牛を牛舎に入れるのにかなり時間が掛かったようです。
 やはり主人の私がいなければ駄目だなと、内心思ったのでした。
 この時期は暑さと吸血鬼「アブ」のせいで牛達は極端に動きが鈍くなります。
 ただ、詳しく彼女たちの話を聞くと、どうもそれだけが原因ではないようです。
 牛が牛舎に帰りたくない理由とは何か、とにかく早く風邪を治し、現場に復帰しなければなりません。

 翌日の朝、牛達はまた山の上のほうにいたようで、親父と研修生が呼びに行っていました。
 私も牛舎で牛を入れる準備を終えるとすぐ、山に向かいました。
 体はまだ熱が下がりきっておらず、少しだるいのですが、そんなことは言っていられません。
 前日の夕方もかなり苦労したようで、帰ってこない牛もいたとか。
 事態はただ事では無いようです。途中で研修生の守矢さんと合田さん、そして数頭の牛と合流しました。
 2人はすでに息をきらし、顔には疲労の色が見えています。
 どれ、私に任せなさいと、牛を牛舎のほうへ追おうとしました。
 が、なぜか牛達は牛舎とは反対の山の方へ向おうとします。
 気合を入れて、追いたてようとすればするほど、逆に逆に向おうとするのです。
 あきらかに牛舎へ行くのを嫌っているようでした。
 なぜ?こんなことは初めてです。

 実習生が見ている手前もあります。
 どうにかしなければ。よし!押して駄目なら引いてみよう!!
 これは学生時代に先輩に教えられた、恋愛の鉄則でした(笑)。
 「来いこーい、来いこーい。」と私は牛の先頭に立ち、駄目もとで呼んで見ました。
 すると1頭の牛がうまいぐらいに付いて来てくれます。
 それにつられるように他の牛も後を追ってくるではありませんか。
 ひとまずほっとひと安心です。大半の牛達は牛舎に入っていましたが、牛が帰りたがらなかった原因はどうやらヤギだったようです。
 ヤギを牛から見えない場所に移動させたら、警戒しながらも牛舎に向ったとの事でした。

 それから、牛の足取りは少しづつ軽くなってきました。
 現在ではすっかりヤギの呪縛から解き放たれたようで、通常通りの朝・夕の営みが繰り返されています。
 それにしても、家には犬や猫、放牧地にはカモシカだったり狐や狸など様々な野生動物が出ます。
 なぜヤギをあれほど警戒したのかは今でも疑問です。