くがねの牧通信 2005年11月 

熊ぞうさん

 皆様こんにちは! この辺りの紅葉は今が見頃です。
 放牧地のシバはすっかり茶色くなってきましたが、高台から見える太平洋と色鮮やかな木々のコントラストがなんとも言えません。
 牛たちも残り僅かな青草と、落ち葉などを食みながら、長い冬に向けて体力を蓄えているように見えます。
 もちろん、私も日本酒片手に食欲の秋を存分に楽しんでおります(笑)

 私が田野畑村に帰ってきてから早8年が過ぎようとしています。就農したばかりの頃は10年ぶりの故郷での生活に、生まれ育った場所とはいえ忘れている事も多々ありました。

 方言もそのひとつかもしれません。その当時の祖父と祖母、それに加わった私の会話です。
 祖母 「昨日あそごの畑に熊ぞうさんが出たずー」
  「そうがそれじゃあ家も注意しないと駄目だなあ」と祖父。
 それを聞いていた私は、何処かの人が野菜泥棒か何かしているのかと思い、「何? 熊ぞうさんたらどこの人」と祖母に聞いたのでした。すると祖母は笑いながら「ハハハ、熊ぞうさんもわがんねーのか、ほら山にいるべー、熊のごとだよ」

 そう、熊ぞうさんとは山に生息する野生のツキノワグマのことだったのです。ちょっとした恥をかいてしまいましたが、昔から人と動物が共生して生きてきたなごりでしょうか、この辺りのお年よりは愛着を込めて熊のことを人の名前のように呼んでいるのでした。

 昨年から今年にかけて私が住む田代地域では熊による農作物に対する被害が目立つようになりました。体表的なものはトウモロコシです。この地域ではほとんどの家が、自家菜園で野菜や穀物を作っています。もちろんトウモロコシを作っている家庭も多いのですが、これがまた熊の大好物なのです。
 一度食べ始めたら止められないようで、隣から隣へとその被害は広がっていくのです。幸い、我が家は美味しそうに見えなかったのか素通りしてくれましたが、被害にあったトウモロコシ畑は無残なものです。我が家が被害にあったものというと、それは牛に与えるロールサイレージです。牧草畑に並んでいる白や黒のビニールで巻かれた筒状のものですが、最近、熊が爪でこの巻いてあるビニールを破くのです。


熊ぞうさんの爪あと!!
大きな手だということが良く分かります(>д<:) 

 なぜこんな物に熊ぞうさんが悪戯をするのでしょう。このビニールで巻かれた牧草は密閉状態で乳酸発酵します。そのときに甘酸っぱい匂いが発生するのですが、どうもその香りに誘われて、何かこの中に美味しい食べ物があるのではと勘違いするようなのです。もちろん、熊は草を食べません。ただ困ったことにビニールを破かれると、いい状態で乳酸発酵していた草が、外気に触れることで2次発酵してしまい、カビが入り、牛にとっては非常に好ましくないサイレージまたは乾草になってしまうのです。

 9月の始めの頃、近所の人に驚きの話を聞きました。その方の家の裏には牧草地があり、土手の上には白いロールが並べてあったのです。早朝4時、飼っている犬がずいぶん吼えるので窓から外を覗いたそうです。するとなんと言うことでしょう! ひとつ400s以上ある白いロールがごろごろと自宅の方へ向かって転がってくるではありませんか。しかも合計3つも! 幸い自宅にも隣に止めてあった愛車にもぶつかる事はなかったようですが、一歩間違えれば一大事になるところでした。

 この犯人は? 言うまでもなく熊ぞうさんだったのですが、少々ビニールに穴を開けるのはまだいいとして、転がすのだけは本当に勘弁して欲しいものです。

 我が家の牧草地でも道路脇の土手の上にロールを置いている場所があります。転がされて走っている車にでもぶつかったら大変なことです。「今の若い者は」とよく皮肉を言われますが、今の熊も何をしでかすか分かりませんね。
 ただ熊のほうからしてみれば、「人間が・・・」といろいろ文句が増えているのも事実のようです。「共生」、これからの本当に大きな課題です。